世代間のキャリア観・仕事観の違いを理解し、相互理解に基づいた職場での協働を促進する方法
はじめに:なぜ世代でキャリア観や仕事観が異なるのか
職場において、部下や同僚との間で「仕事に対する考え方が違う」「キャリアへの意識が自分たちの世代とは異なる」と感じることはありませんか。特に管理職の立場にある方々にとっては、こうした世代間の価値観の相違が、指示の伝わりにくさやチームのモチベーション管理といった具体的な課題として現れることも少なくありません。
これらの違いは、単なる個人の性格ではなく、それぞれの世代が経験してきた社会情勢、経済状況、技術革新、教育環境といったマクロな要因に大きく影響されています。例えば、経済の高度成長期に育った世代と、バブル崩壊後の失われた時代、あるいはインターネットやスマートフォンの普及期、さらにはコロナ禍を経験した世代とでは、安定性への価値観、成長への期待、仕事と生活のバランスに対する考え方などが自然と異なってきます。
本稿では、こうした世代ごとのキャリア観や仕事観に見られる傾向を理解し、その違いを職場の課題ではなく、多様な視点として捉えるための考え方、そして相互理解に基づいた協働を促進するための実践的なアプローチについて解説します。
世代間のキャリア観・仕事観に見られる主な傾向
世代間のキャリア観や仕事観には多様性があり、個人差も大きいことを前提としつつ、一般的に言われる傾向をいくつかご紹介します。これらの傾向は、それぞれの世代が経験した時代背景と強く結びついています。
- バブル期入社・その前の世代(概ね50代後半以上): 終身雇用や年功序列が一般的であり、会社への帰属意識や忠誠心が高い傾向が見られます。キャリアは会社内で築き上げていくものと考え、安定性を重視する傾向があります。仕事と私生活を明確に分けずに、仕事のために私生活を犠牲にすることも厭わない、といった価値観を持つ方も少なくありません。
- 就職氷河期世代・その後の世代(概ね40代〜50代前半): 経済の停滞期に社会に出たため、安定志向を持ちつつも、会社に頼りきれないという現実も見ています。自身のスキルアップや専門性を重視する傾向が見られ始めます。ワークライフバランスへの意識も芽生えてきています。
- ミレニアル世代(概ね30代〜40代前半): デジタルネイティブであり、多様な情報に触れて育っています。キャリアパスは一つではないと考え、転職や独立へのハードルが比較的低い傾向があります。仕事における自己成長ややりがい、社会貢献といった要素を重視する一方、ワークライフバランスを強く求め、プライベートも大切にしたいという意識が高いです。
- Z世代(概ね20代): 生まれたときからインターネットやSNSが当たり前の環境で育ち、グローバルな視点を持っています。情報収集力が高く、タイパ(タイムパフォーマンス)やコスパ(コストパフォーマンス)を重視する傾向があります。安定志向と同時に、個人の価値観や多様性を非常に大切にします。仕事を通じて自己実現を目指すよりも、自分らしい生き方を実現するための手段として仕事を捉える傾向が見られます。
これらの傾向はあくまで一例であり、全ての個人に当てはまるわけではありません。しかし、こうした背景的な違いがあることを理解することは、部下や同僚の言動の背景にある価値観を推測する上で役立ちます。
違いを「課題」ではなく「多様性」として捉える
世代間のキャリア観や仕事観の違いに直面した際、「最近の若い者は」「自分たちの時代は」と、自らの基準で相手を評価したり、一方的に課題視したりすることは相互理解を遠ざけます。そうではなく、これらの違いを「多様な価値観が存在する」という事実として受け入れ、それをチームや組織の強みとして活かす視点を持つことが重要です。
異なる価値観を持つ人々が集まることで、従来の枠にとらわれない発想が生まれたり、多様な視点から問題解決に取り組めたりする可能性があります。管理職の役割は、この多様性を否定するのではなく、いかにチーム全体の力に変えていくかを考えることです。
相互理解に基づいた協働を促進するための実践的アプローチ
では、具体的にどのようにして世代間の価値観の違いを乗り越え、相互理解に基づいた協働を促進していけば良いのでしょうか。以下にいくつかの実践的なアプローチを提示します。
-
「傾聴」と「問いかけ」による対話の機会を設ける 最も基本的かつ重要なのは、相手の話に耳を傾け、その背景にある考えや価値観を理解しようと努めることです。「なぜそう考えるのか」「仕事を通じて何を実現したいのか」といった問いかけを通じて、相手のキャリア観や仕事観を引き出し、共感的に理解する姿勢を示します。定期的な1on1ミーティングなどは、こうした対話のための有効な機会となります。
-
個人の「働く理由」「価値観」を言語化・共有する場を作る チーム内で、各自が「なぜ働くのか」「仕事を通じて何を大切にしたいのか」といった個人の価値観について言語化し、共有する機会を設けることも有効です。全員がそれぞれの「働く理由」を理解することで、互いの価値観を尊重しやすくなり、不必要な誤解やすれ違いを減らすことに繋がります。
-
期待値と目標設定における「対話」を重視する 業務の指示や目標設定を行う際には、単に内容を伝えるだけでなく、その業務が個人のキャリアや成長にどう繋がる可能性があるのか、あるいはチームや組織全体の目標の中でどのような意味を持つのかといった背景や意義を丁寧に説明します。また、目標設定においては、会社やチームの期待だけでなく、個人のキャリア志向や価値観も踏まえた上で、相互に納得できる形での合意形成を目指します。
-
多様な働き方やキャリアパスの選択肢を検討する もし可能であれば、従来の固定的な働き方やキャリアパスにとらわれず、フレックスタイム、リモートワーク、副業・兼業の許可、社内でのキャリアチェンジの機会提供など、多様な選択肢を検討することも、異なる価値観を持つメンバーのエンゲージメントを高めることに繋がります。個々の価値観に寄り添う姿勢を示すことが重要です。
-
「心理的安全性」の高いチーム環境を醸成する メンバーが自分の考えや意見、懸念を率直に安心して話せる「心理的安全性」の高いチーム環境を創ることは、世代間のオープンな対話を促す上で不可欠です。異なる意見も歓迎される、失敗を過度に恐れずに挑戦できる、といった文化は、相互理解と協働の土壌となります。
まとめ:違いを力に変える管理職の役割
世代間のキャリア観や仕事観の違いは、今後も変化し続ける社会において避けられない現実です。これらの違いを一方的に批判したり、無視したりするのではなく、まずは客観的に理解しようと努めることから始まります。
そして、その違いを多様性として受け入れ、対話を通じて相互理解を深めること、個々の価値観を尊重した上でチームとしての目標達成を目指すための共通認識やルールを形成していくことが、管理職に求められる重要な役割です。
世代間の違いを乗り越え、それぞれの良さを引き出し合うことができれば、チームはより強固になり、変化への適応力も高まります。ぜひ、今回ご紹介した視点やアプローチを日々のマネジメントやコミュニケーションの中で実践してみてください。